|
|
出版社/著者からの内容紹介
「大丈夫、今すぐお行きなさい」新宿西口の占い師に保証され脱OL! ワーキングホリデーで向かったカナダ。カナダ人の素敵な彼と出会って結婚! のはずだったのに……?
日本とカナダのカルチャーギャップ、カナダ人の日本人観など、カナダに行く人(行かない人にも)絶対お役立ち間違いなしの一冊。
抄録(「電子書店パピレス」より)
人種別ナンパ法
一般的に、日本人の女の子は外国へ行くとモテるといわれているが、本当によくモテた。
ディスコやバーに出入りしているわけでもないのに、おさいふの中にはみるみる男たちの電話番号がたまりはじめた。日本だったら数分後にはくずかご行きのそれらの紙切れも、ここトロントでは何かの役に立つかもしれないととっておいたのだが、あまりの多さにどれがどれだったかわからなくなってしまった。そしてその事実は私に、〈そーか、海外ではまだいけるのかも〉と甘い期待を抱かせた。
しかし、さすがに人種のモザイクといわれている街だけあり、その電話番号の持ち主たちの肌の色ときたら、黒あり、白あり、褐色あり、黄色ありとまさに七つの海をまたにかけており、おもしろいので途中からコレクションすることにした。
ある日、「トロントには、『JCSA』という団体がトロント大学にあって、毎週土曜日にランゲージエクスチェンジをやっている」と教えてくれる友達がいたので早速行ってみることにしたのだが、どうもその友達がのらない顔をしている。聞いてみると、
「そこには日本人の女の子目当てに集まってくる〈ストーカー〉と呼ばれているトルコ人などがいるらしいので気を付けた方がいい」
とのご忠告だった。
その頃は、ちょうど夏だったせいか、ものすごい日本人の数だった。
私は、日本人三人対カナディアン一人のテーブルでくそおもしろくもない話をし、もう二度と来るまいと思いながら帰ろうと外へ出た。すると一人の国籍不明という感じの見たこともない男が私に向かって突進してくるなり、
「ぼく、きみのこと知ってるよ」
などと言う。私は、
「あー?」
と、訝しげな返事をすると、
「きみ、エグリントンの学校に行ってるでしょ。それでよく、エグリントンの駅のフードコートにいるでしょ。そしてこないだは、濃い色のジーンズにこれこれこういうシャツを着てたでしょ」
と、ピタリと言い当てるのである。びっくりした私は、
「なんで、知ってんの?」
と聞くと、
「きみがあんまりプリティなんで、いつも見てたんだ」
とホザき、しかしそれを裏付けるように、
「こんな服も持ってるでしょ。あんな服も持ってるでしょ」
と、次々と私の持ち服を克明に描写するのであった。これはもしや、と思った私が、
「あんた、何人?」
と聞くと、何も知らない彼はニコニコと、
「トルキッシュ」
〈おー、これがかの噂の……〉
初日にして噂の彼の標的となってしまったマヌケ丸出しな私は、あたふたと、
「私ってば、今日大切な急用があるんだった」
と言って、呼び止め、追い掛けてくる彼を振り切り、一目散で逃げ出したのだった。
とにかく、中東方面の人たちのしつこさには閉口させられたが、なぜかお隣の国、韓国人とて例外ではなかった。
ある日、メキシコ人の女の子と二人で街を歩いていると、彼女がポストカードを買いたいと言ってお土産屋さんで立ち止まった。何枚かのポストカードを抜き取って奥のレジに持って行った彼女を、外でTシャツを眺めながら待っていると、
「ねぇ、そっちの彼女もおいでよ」
と、レジにいる東洋系の男の子が私を呼ぶ。行ってみると、
「きみ、日本人でしょ。どこに住んでるの。いつ来たの。何してるの」
と、本来の客であるメキシコ人の彼女そっちのけの質問攻勢にあい、
「今度一緒に飲みに行こうよ。きみが二人っきりがいやなら、友達もつれて行くから。ぼくは車も持ってるよ。それに、ぼくは韓国人だけどもうここに長く住んでるから英語だって困らないし、もしきみが英語の勉強をしたいんなら、とっても英語が上手な人だって紹介できるよ」
と、日本人女の考えは、もうすべてお見通し、と言わんばかりの手際のよさなのだ。
著者について
石垣由美子(いしがき ゆみこ)
1965年東京都中野区生まれ。法政大学文学部哲学科卒業。
証券会社、出版社勤務を経てカナダに一年遊学。帰国後執筆活動に入る。
本書の他に、同じくトロントを舞台にした小説『メイド・イン・ジャパン』がある(未刊)。
これまで訪れた国はヨーロッパ、北アメリカ、南太平洋を中心に数十カ国に及ぶ。旅行、占い、ダイエットの話なら三日三晩話し続けられる熱中タイプのAB型。