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出版社/著者からの内容紹介
「自分の好きなことを好きなようにやりたい」「自然の中で暮らしたい」と、農業が「転職先」として、これほど熱い視線を浴びている時代はない。自治体の企画する就農プログラムも閑古鳥とは無縁、農業普及所にもビジネスマンが列をなす。全国農業会議所と都道府県農業会議が昭和62年から平成12年までに受け付けた新規就農相談は6万件以上。ところが、成功した人は700人。新規就農は「司法試験なみに難関なのか!?」。著者は、「難関になる理由の半分は、新規就農希望者が、どのような努力をすればよいか知らない」からだと断言する。
本書は、経営コンサルタントのプロが、農業に転職。コンサルティングのノウハウと実体験をすべて盛り込み、類書にない完璧なマニュアルに仕上がっている。インターネット上では、「農業ジャンルの田口ランディ」として知る人ぞ知る著者が、初めて単行本でベールを脱いだ快作。
抄録(「電子書店パピレス」より)
はじめに
「農業をやりたいんだが、どうしたらいいんだろう」
二年ほど前、私の家にそんな電話がかかってきました。大学時代の友人で、その溢(あふ)れる才能に私が在学中から嫉妬(しつと)していた人物からです。
“商売の天才”とはこんな人のことをいうのでしょう。論理的には粗が多いのですが、そんな欠点を補って余りある、鋭敏な嗅覚(きゆうかく)と、天性のカンを持っていました。大学祭などのイベントで、彼の提案どおりにやれば必ず評判になりましたし、アルバイト先では、人の一〇倍の売上をあげ、店長が腰を抜かしたものです。その結果、取締役推薦で就職先も決めました。
彼は会社でも大活躍したようです。日本最高の激戦区にある三番店に勤務していましたが、彼の担当していた部門だけは、競合している一番店や二番店にも負けていないと業界で評判になりました。傍目(はため)には、彼は将来を約束されたエリートに見えました。競合他社も注目していた逸材で、取引先に会社をやめることを伝えたら、早速、これはチャンスと聞きつけたスカウトがやってきたといいます。
それなのに「農業をやりたい」というのです。社内の人間関係が理由でした。出る杭は打たれるのです。どこの会社に移ったところで、組織で働くなら同じだろう……そう考えた彼は、転職先として農業を選び、就農の相談をするために電話をかけてきたのです。
私は反対しましたが、彼も簡単には引き下がりません。五時間にもおよぶ長電話の末、とうとう根負けして協力することになりました。彼の新規就農のために動いていると、それを聞きつけた先輩に声をかけられました。
先輩曰く、「じつは、うちにもそんな奴がきている。一部上場のA社に勤めていて、公認会計士の資格も持っているんだが……」
お互い、顔を見合わせて唸(うな)らざるをえませんでした。
「あいつらは落ちこぼれじゃない。エリートだ。それが農業をやりたいなんて、よほど疲れているか、会社が嫌なんだろうな……」
先輩の嘆息(たんそく)に頷(うなず)きながらも、私は別のことを考えていました。
――有能なビジネスマンたちがたくさん就農したら、おもしろいではないか。もともと農業は難しい。本来、優秀な人材でなければできないものだ。優秀な新規就農者が増えれば、旧態依然な年寄りのいうことを未だにありがたがり、WORDやEXCELの操作やWebページの巡回ができたくらいで情報化社会についていけたと勘違いするような農家の体質が変わってくるだろう。農業の未来も開けてくるはずだ。
こんなことを公言すると、周囲から嫌われるのはわかっていますが、本気でそう思います。
現役の百姓としていわせていただくと、いまの農業は昔と比べて体力的には格段に楽になっていることが多いといえます。作るものによっては、機械を駆使すれば“監視労働”ではないかと思えるほどです。
反面、収益を上げることは難しくなっています。地代も人件費も資材価格も圧倒的に高い状態で、輸入農作物と競争しなければならなくなりつつあるからです。それだけに本気で仕事をしてきたビジネスマンでないと、農業で食えるようにはなれないと思います。
もっともいまは、サラリーマンを続けても安泰とはいえない時代です。いざという時のため、資格取得に走る人が多いようですが、みんながめざせば資格の価値は落ちます。国家資格に限定すれば、とるだけの価値があるのは、弁護士、弁理士、公認会計士、不動産鑑定士くらいでしょう。宅地建物取引主任者や税理士などの資格は履歴書の文字のにぎわいでしかない、と断言する人材バンクの社員もいます。懸命に努力してTOEICで高得点をとって入社面接に臨んだものの、屈辱的な扱いを受けたという人は枚挙に暇(いとま)がありません。
不安定に生きるしかないなら、高級車や豪邸とは無縁だが、自分の好きなことを好きなようにやりたい。組織に足をひっぱられるのはもうたくさんだ。貧乏でもよいから少なくとも足をひっぱる人がいない環境で働きたい――そんな覚悟を持ち、達観している人にとっては、不満のすべてを解消するとはいわないまでも、農業は検討するに値する転職の選択肢になります。
しかし農業に転職するのは簡単なことではありません。全国農業会議所と都道府県農業会議が昭和六十二年から平成十二年までに受け付けた新規就農相談は六万件以上にのぼりますが、そのうち就農までこぎ着けた人は七〇〇人程度にすぎないのです。
こう書くと、新規就農は司法試験のような難しいものに思われるかもしれません。難しいのは確かですが、難関になる理由の半分は、新規就農を希望する人が、どんな努力をしたらよいのか知らないからだと、私は考えています。
私に電話をかけてきた友人は、いま、糊口(ここう)を凌(しの)ぐために高校の非常勤講師をやっていますが、生徒からの人気も抜群です。人気の理由は、彼の落語趣味を活かした授業だけにあるのではありません。「こんなに私たちのことを思ってくれる先生はいません」とは、彼が教えている高校の生徒から、私が直接聞いた言葉です。何をやらせても飛び抜けた上手さを発揮する男でも、農業をやるとなるとなぜ無力なのか、私には理解しがたいものがありました。
新規就農者の体験記はいくらでも転がっています。しかしそれを読むだけでは何もわからないから、先へ進めないのではないか。だったら私がマニュアルを作ってやろう――それが本書を書こうと思った動機です。就農を考えている多くの方々のお役に立つことができれば幸いです。
二〇〇二年七月
有坪民雄
*この続きは製品版でお楽しみください。
著者について
有坪 民雄(ありつぼ たみお)
専業農家。1964年生まれ。香川大学経済学部経営学科卒業。専攻は産業社会論。卒業後、(株)船井総合研究所に勤務。1994年に退職し、現在に至る。懸賞論文・エッセイなどで数多くの入賞歴があり、著書に『勝つ文章技術』など。