|
|
出版社/著者からの内容紹介
インターネットユーザーなら誰もが知っているP2Pファイル交換ソフト「WinMX」。たった1年半で「神」と呼ばれるようになった青年の実体験を追いながら、違法コピー、著作権違反、不正公開……と悪評高いその実態をすべて記した問題の書。
抄録(「電子書店パピレス」より)
WinMXの仕組み
彼女との新生活は、まったく新しいインターネットライフの始まりでもあった。
「なあ。お前、WinMXって知ってるか? 俺、今めちゃめちゃハマってるんだけどさ」
高校時代の友人で、会社の同僚でもある竹本が、引っ越しを手伝いにきてくれたときに、ちょっと自慢げに言った一言。これが僕とWinMXとの出会いだった。竹本はとにかく新し物好きで、インターネットに限らず、流行っているものには一通り手を出さないと気が済まない性分なのだ。
「WinMX? 知らないなあ」
首をかしげる僕を見て、竹本はいたずらっぽい笑みを浮かべながら説明を続ける。
「インターネットのソフトなんだけど、音楽でもソフトでも、とにかく何でもタダで手に入れることができるんだ。マジですげえよ。そうだ、実際に使ってるところ見せてやるよ」
そう言って、竹本は僕のパソコンでインターネットに接続した。といっても、まだ引っ越したばかりなので、家の通信環境はADSLどころか電話回線すら引かれていない。しょうがないので寮生活時代と同じようにP−inとノートパソコンを使うことにした。
手慣れた手つきで、海外のサイトからWinMXのソフトをダウンロードし、ノートパソコンにインストールする竹本。休む間もなく、WinMXを起動し、設定画面を表示させ、手早くいくつかの初期設定を済ませる。このあたり、かなり使い込んでいるようだ。
「何か欲しいファイルはあるか?」
竹本が僕に尋ねた。そんなこと急に言われても……。とっさに思い浮かんだのは、以前オイシイ思いができた宇多田ヒカルの『Automatic』だった。
「宇多田の『Automatic』ってダウンロードできる?」
「お安いご用」
竹本はニヤリと笑って、WinMXの画面内にあるキーワード入力欄に〈宇多田ヒカル〉と入力し、「Search」ボタンをクリックした。
すると、どうだろう。それまで何の味気もないシンプルな画面だったWinMXのウィンドウが、突然大量の文字で埋めつくされた。画面をよく見てみると『宇多田ヒカル』という文字と、彼女が今まで発売したさまざまな曲がズラっと並んでいる。
「何だこれ!? 凄いな……。これ全部ダウンロードすることができるの?」
興奮気味に聞く僕に、竹本は無言でうなずいた。
「MP3なら楽勝だよ。試しにこのファイルをダウンロードしてみようか」
そう言って竹本は、画面内の『宇多田ヒカル−Automatic・mp3』と書かれている文字列をダブルクリックした。すると、それまで文字で埋め尽くされていたWinMXの画面が急に切り替わり、画面には『宇多田ヒカル−Automatic・mp3』という文字列だけが表示された。
「これがファイルの転送画面。今、宇多田の曲を共有しているマシンに接続して、ダウンロードできるかどうか調べているんだ」
「共有って何?」
「WinMXっていうのは、簡単に言うと、自分が持っているファイルをみんなに公開、つまり共有して、お互いにダウンロードできるようにするソフトなんだ。さっき、〈宇多田ヒカル〉で検索したときにたくさんファイルが表示されただろ? あれは宇多田のMP3を持っている人が、WinMXでファイルを共有状態にしているんだよ」
パソコンを通し、お互いが共有状態にしているファイルは、WinMXの画面上から自由に検索することができるそうだ。そのため、誰がどのファイルを持っているかということもすぐにわかるらしい。だが、ここでひとつの疑問がわき上がった。
「MP3を落とすだけだったら、別にWinMXなんか使わずにアングラ系のウェブサイトからダウンロードすりゃいいじゃん。何でわざわざこんなソフト使うわけ?」
「欲しいファイルを探す手間が全然かからないんだ。みんなこのソフトでファイルを共有しているからね。つながっている人が多ければ多いほど、膨大なファイルを探すことができる。その共有の設定だって、共有したいファイルを特定のフォルダに入れておくだけでいい。設定画面を開いてそのフォルダを指定すればすぐにファイルを公開できる。とにかく簡単にファイルを交換して手に入れられるのが、WinMXのいいところなんだ」
確かに、アングラサイトの欠点は、欲しいファイルがなかなか探せないってことだ。それを思うとこれは凄いツールなのかも……。ん? 待てよ。何か話がウマすぎやしないか?
「その話だけ聞くと、WinMXを使ってる連中は、善意でファイルをみんなに配ってるように思えるんだけど……。彼らは何のためにファイルを共有してるんだ?」
「自分が持っているファイルをエサにして、他人とファイルを交換するんだよ。もっとも、一切ファイルを共有しないで、ひたすら他人の持っているファイルをダウンロードするってこともできるんだけどね。俺はもっぱらダウンロードしかしてないな」
笑いながら竹本は答えた。確かに便利そうなツールだ。引っ越しの作業が落ち着いたら、じっくりと試してみるのもいいかもしれない。
著者について
津田 大介(つだ だいすけ)
1973年生まれ。東京都出身。早稲田大学社会科学部卒。編集プロダクション「ネオローグ」代表。
週刊誌、インターネット誌、ビジネス誌、音楽誌などを中心に幅広いジャンルで執筆。音楽配信を中心としたデジタルコンテンツ流通関連ニュースを集めた情報サイト「音楽配信メモ」も主宰している。