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男が、病院で介護するということ

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著者:野田明宏
価格:¥ 210
新風舎


■ 内容紹介

出版社/著者からの内容紹介
 その日は、突然やってきた。父の人生最期の入院生活。そして母と息子の交代介護が始まった!
 「エッ、息子さんが介護!?」不安な表情で医師は言った……。フリーのルポライターである著者(一人っ子・独身)が病院介護の最前線を報告! 高齢化、少子化、核家族化社会で今後ますます問題になるであろう介護問題を実体験から綴る。


抄録(「電子書店パピレス」より)
 老人・老親介護というのはズバリ、オムツ交換のことだと思う。ある看護婦さんは私にこのように言った。
 「赤ちゃんのオムツ交換のように、『私の大切な人だから』と思いながら、老人のオムツ交換もしてあげることを老人介護というんだからね」
 もちろん、今回の入院期間中にも父のオムツ交換はかなりやったが、どうしても、オムツ交換初体験の夜のことを書いておきたい。
 ただし、その看護婦さんの言葉からはあまりにも、かけはなれてはいたが。
 それは、約三年前のことだった。母六十五歳、父六十六歳。父は心臓、胃、腸などを患い何度も長期入院を繰り返し、そのたびに母は病院へ泊まり込んでの介護だった。
 このときも父は前立腺肥大で入院。入院中に風邪をこじらせて肺炎になり、そしてMRSA(院内感染)にまでも感染し、
 「手術を受けてもいないのに院内感染するとはね?」
 との冷たい声も聞こえてきていた。
 主治医からは、
 「元来体力のない人だから、死も覚悟しておいて下さい」
 との言葉に、さすがに母も疲れきってしまったようだった。母の口癖は、
 「お父さんの介護は私がします。他の誰にも迷惑はかけません」
 しかし、
 「一晩、帰って寝ろよ。オレが介護をやるから」
 との言葉に何の抵抗もなく、紙オムツの場所だけを私に説明し帰宅していった。
 とはいっても、一晩付き添うなどという経験は初めてであり、紙オムツの場所を教えられてもピンとくるものではなかった。今晩、そして明日。母が来るまでは排便はないだろう、などと楽観的に考えるよう心掛けていた。
 しかし、真夏の本当に暑い夜だった。夜八時で冷房は自動的にストップし、それからは窓を開放しての介護になる。幸か不幸か院内感染ということで、二人部屋に一人だけ隔離された状況で父がいて、私が付き添っていた。
 消灯時間は過ぎ、深夜の十一時ごろだった。読書用の灯りで本を読んでいると、「ブル、ブブブー」という音が聞こえた。
 「まさか?」
 とは思いながら父を見る。すまなそうな顔で
 「でた」
 と一言。いやはやパニックだ。看護婦さんにお願いしようかとも考えたが、自分の父親の下の世話は付き添っている息子の義務であり責任、ぐらいは自覚していた。
 まず新しい紙オムツを一枚とり出す。心中で気合いを入れて、いよいよオムツ交換。今でこそ、まず上腹部からオムツを外し、患者を仰向けの状態から横向けにし、便の処理をしてオムツを取り外し、新たにオムツを臀部の下に敷く。
 というあたり前の順序を理解しているが、その最初のときは、赤ちゃんのオムツ交換のように父の両足を持ち上げて交換しようとした。事実、最初はそれで決行してしまった。
 しかし、頭では理解していても感性は別だ。
 「きたねえなあ、クセー」
 などと父に罵詈雑言を浴びせている自分。自分の両親の下の世話を初めてするとき、他の人はどんなだろうか? と考えたりもする。
 私の場合は、子供のころ酒乱の父に頻繁に殴られた。その反発もあり、
 「あんな偉そうなことばかり言ってたのに」
 と、怒りを感じる。また一方では、辛そうな顔をして息子のなすがままになっている父親と接して、
 「こんな父親の姿は見たくなかった」
 とも思う。
 さて、オムツ交換は思うがままにはいかなかった。便が軟便だったので、というより下痢便に近かったので、オムツから漏れシーツまで汚している。泣きたくなる、というのはこのことだろう。
 思考回路はプッツンし、“父をいかに優しく介護するか”は、もはや思考の外だった。とにかく、便の始末が最優先で、
 「チクショウ、なんでオレだけが」
 などと、世の中の不幸を全て背負った気分になっていた。
 当然、父への接し方も手荒になってしまい、父も右に左へと動かされ苦痛の表情ばかり。
 結局、一回のオムツ交換に二十分程度を必要としてしまったが、一件落着となったころ、定時巡回の看護婦さんがやってきた。そして、
 「あら、あなたがオムツもシーツも交換したの。エライワネー。なかなか男性にはできないのよ。お父さんも立派な息子さんを持って、シアワセネ」
 と。
 この言葉を聞きながら私は内心、
 「そんな立派なもんじゃないんだよ」
 と恥ずかしくもなったが、この一度の体験で、便に対する不安が安らいだのも事実だった。
 父にも私にも厳しく辛い一夜ではあったが、一つの壁を越えた後、私は自分自身を誉めてやりたい気分にもなっていた。


著者について
 野田 明宏(のだ あきひろ)
フリーライター。昭和31年岡山市生まれ。国士館大政経学部卒。昭和50年以降、東欧、中近東、中米など50カ国を旅行。中米に2年間滞在。発展途上国の政治、経済をテーマにルポ記事を書いている。

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「男が、病院で介護するということ」紹介ページの最終更新日時
2006年4月8日 21:26:44
ID:1325
※実際の販売・ダウンロードは『電子書籍パピレス』にて行われます。